草森紳一さんの初期評論に、「オバQと正ちゃんは同一人物である」(『オバケのQ太郎8』虫コミックス 1970 所収 〜HP 藤子不二雄FC “評論ロボット”の表題で検索可)という傑出したまんが評がある。藤子不二雄著『オバケのQ太郎』の構造を具体的な例を引きなが…
魅惑的なアンソロジーを編むことは難しい。幻想・怪奇分野となると、単に沢山の短編を読破していれば面白い小説集を作れるかというとそうでもない。国内そして海外にまで渡って、埋もれたまま眠っている原石を地道に掘り起こしていくのは容易い作業ではない…
暗い欲望に突き動かされた人間が織り成す三角関係の修羅場が好きだ。目の前で展開される現実の壮絶な愛欲劇ではなく、小説や映画などのフィクションでの話である。 子供の頃、親に隠れてこっそりと昼メロの淫靡な不倫(よろめき)を覗き見たり、B級怪奇サス…
最近、並行的読書法(『裁判官の書斎 全五冊』書評参照≪付記2≫)で読み進めている本に倉阪鬼一郎著『夢の断片、悪夢の破片』(同文書院)がある。本書の表題ともなったE・M・シオラン著『オマージュの試み』(法政大学出版局)を解読する際に、倉阪さんが引…
約半年ぶりの書評である。(厳密には、過去の書評に付記として所々に追録しているので、決して長いブランクではないのだが・・・)どうも怠け癖が顔を見せ始めたようだ。 ここ数ヶ月に渡って読んだ本の傾向は、驚くほど似通っている。 列記してみると、権藤…
この本との出合いもまた草森紳一さんが作ってくれた。直接の要因は、前回取り上げた『彷書月刊』の諸星大二郎特集号と同様、崩れた本の山の中から(草森紳一蔵書整理プロジェクト)というブログに掲載されていた2009/1/8付の「巨匠放浪」と題した文章による…
いやはや本当に参った。これほど諸星大二郎さんの漫画に嵌るとは思ってもみなかった。 読み始めるきっかけとなったのは、崩れた本の山の中から(草森紳一蔵書整理プロジェクト)というブログに掲載されていた二つの文章だ。マンガ担当のLiving Yellowさんが2…
どんな本が私の心を揺さぶるのか、正直未だに判らない。年齢やその時置かれている環境によって、それは微妙に変化していくもののように思えるからだ。 本書を読む前に一読した、同じ千草さんの『贄の花(上・下)』は、完璧なまでに洗練された様式美を圧倒的…
「このうらみはらさでおくべきか!!」のフレーズで陰惨な復讐の幕が開く、藤子不二雄Aさんの裏の代表作である。そう、表ではなくあくまで裏。深い闇に埋もれた中で、人知れずひっそりと咲く危険で魅惑的な暗黒界の毒花なのだ。眩しいばかりの白昼に花開いて…
私は軽症の観念マゾヒストである。自称なので、他人からは軽症に見えないかも知れない。この症状を自覚したのは、第一回目の書評で取り上げた私のバイブル(常に読み返す稀な本だ)ともいうべき本、沼正三著の『ある夢想家の手帖から』を読んだことによる。 …
「カッコ良すぎるぜ!毅宏さん!!」読後感は、この一言に尽きる。 まず、この本の装画(牧かほり)と装幀(新潮社装幀室)が洒落ている。天地と腹部分の小口は真っ黒で、手垢の汚れもわからないくらいだ。カバーを外すと、表裏の上段に英語で小さく白文字で…
海外ミステリー、ジョセフィン・テイ著『時の娘』のベッド・ディテクティヴ(病院で入院中している探偵役の患者が過去の資料を元に推理を展開する)という形式に、高木彬光さんが感化されて書き下ろした斬新で意欲的な推理小説である。出版された当時は随分…
草森紳一さんの名前は、だいぶ前から知っていた。そこには、ジャンルを問わずに様々な雑誌に読み易い短文を寄せていた器用な随筆家といった記憶しか残っていなかった。おそらく、新刊雑誌を熟読せずに読み飛ばす癖のある私は、草森さんのことを強烈な個性を…
東海林さだおさんの初期代表作を纏めた一冊。 「東海林さだお傑作集」の『トットキ漫画傑作選』と「週間漫画」に連載された『新漫画文学集』から抜粋した物を中心に構成されている。 本書を購入した十年近く前は、『ショージ君』に夢中になっていた時期で、…
雑誌掲載の小説(未単行本化)を書評するのは掟破りかとも感じたが、この小説に自分なりのけじめを付けたい意味もあり、非難を承知であえて取り上げることにした。 数年前に、購入した古本雑誌に掲載されていたこの短編に目を通した最初の印象は、“千草さん…
HP「書肆月詠」で紹介された年少者向けの悪魔学本である。内容は児童書とは思えないくらい、邪悪な匂いを沸々と漂わせている。 「書肆月詠」によれば「ビッグジャガーズスペシャル」と銘々され、佐藤有文さんの監修で『ソロモン王の魔法術』と本書の二冊が刊…
推理小説ファンの間では知る人ぞ知る、高木彬光さんのデビュー作である。 当時高木さんは、何かに取り憑かれたような状態に陥り、僅か三週間で一気に書き上げたらしい。その後、高木さんは発表の場に困り、江戸川乱歩さんに直接原稿を送って、意外にも好評を…
この小説を知ったのは、敬愛するHP 「書肆月詠」に掲載された、『金羊毛』という「季刊幻想文学」の前身となった同人誌(創刊号)の紹介記事を見かけたことによる。そこに書かれた、”内容は池田得太郎『家畜小屋』(中央公論社)を発掘したりと、かなりマニ…
迂闊だった。著者の倉田さんがご高齢なので、御身体のことを少々気にかけていたのだが、今年の1/30にお亡くなられたことを本日知った。裁判官・公証人・弁護士を務めて、八十九歳で死去されたそうだ。正に、天寿を全うされたと言って良いように思う。心から…
SFスペースオペラと銘打って出版されたジョン・ノーマンの代表作である。その後シリーズ化されたが、本書が一作目。 この小説との出会いは、ジョン・ノーマンを扱ったHP「Far East of Gor 極東のゴル」を目にしたのがきっかけだった。(”奴隷を扱った小説”に…
SMファンに『復讐の鞭が鳴る』の題名で、74年10月〜75年1月まで連載されたもの。(千草忠夫のファンサイト《不適応者の群れ》情報)千草忠夫さんの執筆の場が、「奇譚クラブ」から「裏窓」「SMファン」「SMコレクター」等の他誌へ移っていった時期の作品であ…
戦後数多く発刊されたSM雑誌の走りとも言える「奇譚クラブ」に携わった人達を、随筆形式で紹介したものである。沼正三著の『ある夢想家の手帖から』について書いた時にも感じたことだが、エッセイは紹介するのが非常に困難で、内容を詳細に取り上げようとす…
このブログの題名の由来になり、一部のマニアが絶賛した『粘膜人間』の登場だ。本書は、飴村行さんのホラー大賞への投稿作であり、デビュー作でもある。このミス(このミステリーがすごい!)を読まなくなって十年近くにもなるが、この手の小説を読み落して…
戦後のカストリ雑誌『奇譚クラブ』に連載されていた作品を、ほぼ完全な形で纏めた本である。(都市出版社や太田出版から出ているものは抄録本で、”ほぼ”と記したのは不定期連載「沼正三便り」の一部と、ヤプーの「中絶お詫びのご挨拶」記事、告発ともいえる…
本書は、千草忠夫さんの代表作というわけではない。千草本は未読が多いので、あえて印象に残った小品を取り上げてみた。千草さんは、英語教師という肩書きを持ちながら、雑誌「奇譚クラブ」に随筆を投稿したことから文筆業に携わるようになった人である。団…